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映画『マイマイ新子と千年の魔法』 [アニメ感想‐映画]

先日(といっても既に二週間ほど前だ)、隠れた名作と評価も高い『マイマイ新子と千年の魔法』をやっと観てきたので感想など書いてみる。ちょっと長いです、ご勘弁。
映画の公式サイトはここ⇒【「マイマイ新子と千年の魔法」公式サイト(2009年公開映画)

映画「マイマイ新子と千年の魔法」より映画「マイマイ新子と千年の魔法」より

舞台は昭和30年代の山口県防府市・国衙、そこに暮らす地元の少女・新子(しんこ)と、東京から父親の仕事の都合で転校してきた少女・貴伊子(きいこ)、彼女たちがいわばダブルヒロインだ(実はもう一人、重要な役どころの少女が登場するので、より正確にはトリプルヒロインとなるか)。慣れない田舎暮らしに戸惑う貴伊子がやがて新子やクラスメイトとも打ち解け友情を育んでいく様子や、彼らの日常が美しい自然を背景に活き活きと、そしてとても丁寧に描写されている。

同時にこの映画は正直なところ大変地味なのだ。アニメファンが注目するような流行りの派手な要素はほぼ皆無だ。ヒロインの新子が祖父から聞かされた千年前の町の姿やそこに生きた人々の様子に空想をめぐらせる、文字どおりファンタジックなシーンもあるとはいえ、例えば『となりのトトロ』のような分かりやすいカタルシスは無いからだ。よくこの企画が通ったな、と妙な感心すらしてしまうほどだ。まあ初公開当時にうっかり見逃した自分にえらそうなことを言う資格も無いが、手間のかかるだろう部分を本当に丁寧に作り込んでいるのでアニメーションとして、あるいは映画としての質はとても高い。これは間違いない。

この映画が初めて公開されたのは2009年11月21日、半年近くも前なのだが、熱心なファンによる草の根というべき活動もあって細々とロングラン上映が続いている。だが初公開時は興行成績に恵まれず短期間で上映が打ち切られてしまった。そもそもこの映画の存在自体があまり認知されていない。つい先日、NHK BS2の番組「MAG・ネット」で特集が組まれ、それで初めて知ったという人も少なくないようだ。自分が知ったのはGIGAZINE(「2009年秋期放送開始の新作アニメ一覧」)の記事だった。多くの新作TVアニメの情報の中、決して本数は多くない劇場用作品のカテゴリ、さらにその末尾に掲載されていたのだ。アニメ誌でもまともに採り上げたのはアニメージュくらいだったそうで、メディアへの露出はほとんどなかったはずだ。広告宣伝の予算が大変厳しく、十分な広報活動ができなかったとも聞く。同時期に公開されたアニメ映画には『東のエデン 劇場版1』、『テイルズ オブ ヴェスペリア ~The First Strike~』、あるいは『劇場版 マクロスF 虚空歌姫~イツワリノウタヒメ~』がある。それら見映えのする作品の中に埋もれてしまったことは否めない。

映画「マイマイ新子と千年の魔法」より映画「マイマイ新子と千年の魔法」より

時代は昭和30年代とちょっと昔、田舎に越してくる都会の子、はぐれた妹を探すくだり、空想か現実か判然としないシーン、活き活きと描写される子供たち、そして美しい背景美術。それら多くの共通する要素から(先にも名前を挙げたが)『となりのトトロ』を連想することも可能だ。だが『トトロ』の登場人物は皆「いいひと」ばかりだ。大人も子供も、少なくとも映画で描かれた範囲では。『マイマイ新子』では大人の駄目な部分もそのまま出てくる。肯定も否定もせず、ただそのままぽんと提示する。例えば新子たちが通う学校の女教師も、警官であるクラスメイトの父親も、決して清廉潔白な立派な大人としては描かれない。新子たちがどこまで理解していたかは分からないし、理解できていなくても別にかまわないが、そんな大人の複雑な事情すらも新子たちの日常の(事件の)一部として描かれていたのは面白かった。

また、新子と貴伊子の関係性はキャラクターデザインのお手本にもしたというハイジとクララを連想するべきなのだろう。だが自分はむしろ、『赤毛のアン』におけるアンとダイアナを連想した。最初は新子(アン)の空想に付き合わされる貴伊子(ダイアナ)だが、映画の中盤辺りから主客が逆転していくようにも見えた。そして遂には貴伊子が自身の中に空想(千年の魔法)を取り入れ自分のものにしてしまう。最終的にはあの土地に留まる者が土地の「歴史」そのものである「千年の魔法」を引き継ぐわけだ。ではエンディング後の新子には千年の魔法はもう顕現しないのか。まあ厳密には顕れないんだろう。もちろん「むずむずする」ことはこれからも続くだろうが、それは彼女の中にあるものであって、あの土地がもつ「魔法」ではないのかもしれない。

いずれにせよ二人のヒロインは大変魅力的に描かれていて、これは新子役の福田麻由子、貴伊子役の水沢奈子の演技に負うところも大きいと思う。とても上手だった(もちろん他のキャラクターとそのキャストも)。またエンディングに流れる主題歌「こどものせかい」も良曲で、映画の締めくくりを美しく彩っていた。思わず泣きそうになったほどだ。

マイマイ新子 (新潮文庫)

マイマイ新子 (新潮文庫)

  • 作者: 高樹 のぶ子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/03/28
  • メディア: 文庫

原作は山口県出身である作家・髙樹のぶ子の自伝的小説とのこと。公式サイトやパンフレットにも掲載されている作者のメッセージを一部引用させてもらう。

あるいは、こうも思うのです。このアニメ世界こそが本来の姿であり、高度成長に狂った昭和三十年からの年月こそ、日本と日本人は「物質的に豊かになれば、幸せになれる」という間違った魔法に掛けられていたのではないか。新子は私達に魔法を掛けるのではなく、解き放とうとしているのではないだろうか。

世界は単純ではなく、生きるのは困難だけど、すべての子供たちに、自分の心の底に流れる水の美しさを知って欲しい。千年の時を流れる小川は、現代の都会の子供にも流れているのだと。

そんな新子の魔法にぜひあなたも・・・と言いたいところだが、残念なことに現時点ではソフト化の予定がないのだという(どうやら目処が付きそうな気配はあるらしいのだが)。せめてDVD化されればより多くの人に観てもらう機会も増えるので、ぜひとも実現して欲しい。そして新子の魔法に魅せられて欲しい。

その代わりといってはなんだが、公式サイトでは各種プロモーション用動画が公開(YouTubeにアップ)されていて、その中に太っ腹にも冒頭5分間をまるごと見せてくれるものがあるので貼ってみたり。『サマーウォーズ』も同じようなことやってたけれど、最近の傾向なのかしら。
【2010/04/23 21:05追記】DVD化が正式に決定したようです。詳細は後日(5月10日頃に)公式サイト等で発表されるとのこと。欲を言えばBlu-rayで...との思いもあるが念願のソフト化だ、良かった。
【2010/05/17 01:32追記】DVD発売日が2010年7月23日に決定・公表されました。詳細は公式サイトを参照ください(トップページに記載されています)。資料・映像特典等も充実したお買い得仕様です。

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

マイマイ新子と千年の魔法 [DVD]

  • 出版社/メーカー: エイベックス・マーケティング
  • メディア: DVD

「マイマイ新子と千年の魔法」まるごと見せます(冒頭5分) - YouTube

なお、記事中に使用した画像は全て、公式ブログにおいて「映画に関する感想や応援コメントなどを書く場合に使用して欲しい」と公開されているものを拝借した。末尾ながら感謝申し上げます。

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コメント 2

おどんとグリフス

悪貨は良貨を駆逐するとまでは言いませんが、真に良質な作品が埋もれてしまうのは悲しいことだと思いますorz
というか、最低でも山口県と福岡県は、各小学校に本作品のBDを1枚づつ支給してもいいんじゃないかと思うんですがねぇ。

とりあえず、ソフトがでたら予約して購入する所存であります(^^;
by おどんとグリフス (2010-04-21 23:50) 

HINAKA

HINAKAです。

chokusin様

噂は聞いていたのですが、個人的な事情で映画館から足が遠のいているので、結局未見のままです。
NHKの番組で、完全に一般人の若いママさん達が、自分達の出来る事をしようと手探りで、広報活動を行って、最後に大きなシネマ・コンプレックス(角川系みたいです)社を動かして、地元や他の地域でも見られるようにしたという話しには、胸が熱くなりました。

他にも、インターネットを通じた署名活動など、これまでとは違う草の根の、上映運動が実って結果として、現在もシネコンを中心に上映館が増えているという話が感動的でした。
ハデな社会運動とは異なる文化的な市民活動が、本当に良いものを残すという側に、大きく働いている事とその影にインターネットや、携帯電話の普及というものを、痛切に感じました。

というお話の後で、例の規制の件を記事にしましたので、トラック・バックさせていただきます。
個人的には、この手の話しは、もう……という感じなんですが、仕方ないんですよねェ~。

それでは、また。


by HINAKA (2010-04-22 06:31) 

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